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保育園の漆器更新を橋渡し

漆器というと、「扱いが難しいのでは?」と敬遠する人もいらっしゃるかもしれませんね。でも実は、安全性の面でも耐久性の面でも、とても優秀な器です。
見た目も美しく、口当たりもなめらかで、熱が伝わりにくいので汁物を入れても持ちやすいという特徴もあります。


福島県の喜多方では、地場産業振興政策として1979年から45ヘクタールの山林に13500本の漆の植栽事業がスタートしました。そして1999年から漆採取が始まり、以来、会津喜多方漆器商工協同組合さんが地漆をふんだんに使った漆器を作りつづけています。学校給食の使用にも耐える丈夫で上質な漆器のお椀も、教育委員や調理員さん、食器洗剤機メーカーさんなどたくさんの方々の協力を得て開発され、今も喜多方市の小中学校はもちろん、保育園や幼稚園から老人施設でも使われています。

 

所沢生活村の比嘉理事は、20年ほど前に「埼玉学校給食を考える会」の活動を通して会津喜多方の漆器に出会いました。考える会はそれまで学校給食の食器として強化磁器食器を提案して来ていたのですが、喜多方市が教育委員会とともに地場産業でもある漆器のお椀を学校給食に導入されたことを知って、早速、その小学校へ見学に行き、教育委員会や給食現場、漆器組合の方々にお会いして話を聞かせていただきました。自分たちでも調べてみると、伝統的な漆器が本来の作り方であれば、実は非常に実用的で普段使いにも十分耐える優れものだということを知りました。当時、広く日本の学校給食で使われていたプラスチック食器からビスフェノールAという環境ホルモンが溶け出ていることが問題となっていましたが、漆器は子どもたちへの悪影響がないことが分かっていました。
健やかな成長を願えば、できる限りプラスチックは避けるべきでしょう。加えて、お椀を手に持って温かい汁物をいただく食べ方が自然と促されることは素晴らしいことです。食事作法だマナーだと言いながら、ご飯もお汁も一緒のお皿から先割れスプーンで食べさせる学校給食が各地で長期に一般的だったとは、今振り返ってみても論外なことだったと思えます。最近はお椀を使うところが増えたようですが、またプラスチックでは残念なことです。やはり漆器を選びたいものですね。


そんな経緯もあり、所沢生活村では、会員のみなさんに喜多方の漆器を勧めるとともに、修理が必要な漆器を随時会員に募り、まとめて喜多方に送って修理してもらう活動を続けています。リーズナブルな修理費で、丁寧な仕上がりがとても好評です。

 

一方、所沢市内にある「あかね保育園」では、毎日の給食を大切に考え、食材を厳選するのに加えて、かねてから漆器のお碗を使ってきたそうです。

そんな「あかね保育園」は、所沢生活村の牛乳や果物などを給食やおやつに日常的に活用していて、所沢生活村の会報を通して喜多方の漆器について知りました。

 
子どもにも安心して与えられる伝統的な器を。

修理できるものなら、大切に使いたい。


そんな思いがつながって、2020年夏に所沢生活村が橋渡しをして、保育園の給食と喜多方の漆器のご縁が生まれました。

 

毎日の使用で、ちょっぴりくたびれてきていたのは、こんな器でした。

修理されて戻ってきたら、このとおり。
まるで新品です。使ううちに、だんだん艶と透明感が出て、木目がきれいに見えるようになります。本物の日本産の漆が50%も入り、職人さんが丁寧に塗るためです。

これを機に、「あかね保育園」では会津喜多方漆器商工協同組合特製のお椀を40個ほど、新しく導入。

少し浅めで、汁物はもちろん煮物やおかずにも使いやすい形状なので、従来の深めの器と比べて持ちにくくないかと少し懸念されましたが、実際には、このとおり。小さな手にも、しっくり収まりました。

「あかね保育園」では、これからも修理しながら使いつづけ、少しずつ新しいお椀に更新していく予定とのことです。

 
漆器は、作る段階でも、使っているときも、廃棄したあとも、環境や身体に有害なものは何も出しません。

所沢生活村では、江戸時代から続く喜多方の漆器づくりをこれからも応援し、喜んで使っていただける方々につないでいきます。

 

みなさんも、しっとりと手になじむお椀を、塗り直しながら大切に使ってみませんか。